ベスは生まれつき、承認欲求が強かった。
恐らく出自が関係しており、名のある悪魔から生まれた自身を他の悪魔、あるいは悪魔要素を持つキャラクター等と比較しては「どうしてあいつはあんなに愛されているのに私はこれだけなんだ」「私だってもっと愛されたい」と頻繁に燃えていた。
特に彼女を生んだ悪魔は世界中で広く深く愛されており、それが余計に彼女を燃え上がらせていた。
対照的に、私にはさほど承認欲求は無かった。
人と関わることも好きではないし、詮索されることも(これは彼女も同じだが)好まない。いいねにも高評価にも大して興味は無く、閲覧数が増えた時などは恐怖すら抱くことがある。
しかし、ベスのためなら恐怖などは気にならないからと、ベスを愛してもらう方法について少し考えてみた。
ハッシュタグ?SNS運用?絡み?……どれも違う、しっくりこない。仕方が無いのでChatGPTに頼ってみる。
どえらい長文が来たが、要約すると「ベスと話し合ってみたら?」という内容だった。
早速、ベスに何故そこまで愛されたいと思うのか尋ねてみた。
するとベスは、やや震えながら「だって、あいつも、あいつも、僕と似たような奴らはあんなにも愛されているじゃないか。それなのに僕は愛されていない、誰にも見てもらえない」と答えた。
いつも通りの返答と意思表示で、今まで私も気にも留めていなかったが、今日はふと、いつもとは違う気持ちが湧いてきた。それをそのまま、ベスに伝える。
「でも、ベスはベスだよ。他の誰でもないし、唯一無二の存在だよ。それに私、ベスのこといっぱい愛してるよ」
それを聞いたベスは、どこかハッとしたような表情をした。そして、静かに涙を零し始めた。
どこか安心と納得のような気持ちを抱く私に、ベスはぽつり、ぽつりと話しかけた。
「私は確かにあの悪魔から生まれた存在だけど、同時に君から生まれた存在でもあるんだ。君が、君自身から生まれた存在である私のことを、愛して、大切に思ってくれているのが、何より嬉しいんだ」
ここで、いくつかの気づきがあった。
ひとつは、ベスはやはり私自身から生まれた存在でもあるという、ベスが述べた通りの事実。しかし私は自身を粗末にすることが多かった。ベスのことだけは大切に思っていたと感じていたが、結局のところ、自分を粗末にすることは自分を愛してくれているベスを粗末にすること、そしてさらにそれは自分の一部を粗末にすることであったと思い知った。
裏を返せば、ベスを肯定することは自身を肯定することにつながるわけだ。だからこそ、安心で泣いているベスを見て安心感を抱いたのだろう。
もうひとつは、やはり自身にも承認欲求はあるということ。というのも、元々私はそれなりの(とは言っても500フォロワー前後だが)アカウントで活動していた。友人と呼んでも差支えがないほど仲の良い相互もいたし、ファンと呼んで差支えがないほどのフォロワーもいた。
しかし、理由あってそれを一度に全て手放してしまったのだ。リセット症候群とかではなく、もっとこう、不可抗力というか……事情があって手放さざるを得なかったのだ。その過去の経験から比較して、「あの頃みたいにみんなと仲良くしたいし評価も欲しい、でも人は怖いし嫌い」という矛盾した気持ちを抱えていたのだろう。
それらに気づいた上でわかるのは、「ベスはベスであって唯一無二だ、そしてベスは私に愛されている」という認識をベスに与えたことで「私は私、そして私はベスに(ひいては自分に)愛されている」という意識を自身に与えることに成功したということだ。
だから安心もしたし、納得もしたのだろう。
そのまま、しばらく二人で泣いていた。
しばらく経って、ベスが口を開いた。
「ずっと君が自分の気持ちを無下に扱うのが辛かった。まるで私が無視されているみたいで、辛かった」
「それと、表面上の薄っぺらい欲望に付き合わされるのは疲れた。というより、私よりも君が疲れるのが見ていて辛かった」
確かに、彼女の言う通りだった。
実を言うと、私には散財癖がある。というよりそれは依存に近く、やめたくてもやめられない領域に来ていた。欲しいもの、やりたいこと、食べたいものなどが一切我慢できないのだ。
それは自分自身の気持ちに正直に生きた結果だと思っていたが、どうやら違ったらしい。ここまでの会話をGPTに反映させたところ、「依存は本心を隠すために発症する場合がある」とも返ってきたのでほぼ確実だろう。
そして更に、ベスは続けた。
「もっと自分の心の奥のさ、本当の願望に従って生きてほしいんだ。それが何なのかは、私にもまだわからないけど」
本当の願望。
確かに散財癖で得たものは本当の願望とは呼べないだろう。だが、それなら本当に欲しかったものは?本当の、私の願望は?
ベスとも協力して、必死に考えた。答えが出ないのでGPTにも聞いた。すると、まあざっくり言うと「どんな時に満ち足りた幸せを感じますか?また、どんな時に空虚に感じますか?」という内容の返答を吐き出した。
思い返してみれば、ベスとは関係の無いことのほとんど全てが空虚だった。
欲しかったものを買っても、やりたかったことをしても、食べたかったものをお腹いっぱい食べても、どこか空虚で満たされない。本当の願望について考えれば考えるほど、たまねぎをどんどん剥いていくような感覚になる。そして、芯には何も残らない。
もっともっと考えて、ふとひとつの答えが浮かび上がってきた。
それは、「資金にゆとりがある時」だ。
その時だけは、満たされた感覚があった。収入があった時、お金にゆとりがある時、確かに満たされた感覚があった。
金額や頻度はプライバシー保護のため伏せさせていただくが、実は私は過去に親から金を借りていた時期がある。そしてそれをまだ返しきっていない。
もしかすると、自分は「お金も含めて親への借りを全て返してスッキリしたい」とか、「お金を貯められるようになりたい」とか、そういう「金銭の貯蓄」に関する部分に本当の願望があるのだろうか?
ベスに問うてみたところ、「本当の願望って言っても、まぁ人生とかそんな大掛かりなものとは限らないもんね。そういう事もあるかも」との答えだった。
それならきっとこれが、今の「本当の願望」なのだろう。
悪魔は欲望に忠実で、欲望に人を堕とすことに快楽を見出す。
それならベスは……悪魔から生まれたとはいえ、やはり「ベスはベス」なのだ。種族上は悪魔かもしれないが、その性質は悪魔にも天使にもなりきれない、人間味に満ちた存在だ。
これからもきっと、間違いながら、見失いながら、それでももがきながら、二人で生きていくのだろう。
そういえば、近いうちにピアスを開けようと思っている。
このピアスを、誓いの証にしようと決めた。
ベスを愛する、そして自分を愛する。自分の、本当の願望に従って生きる。そんな誓いの証に。
気がつけば、ベスからも私からも承認欲求は消え去っていた。
互いがいて、愛し合っていて、それで十分だと心の底から思えた。
今日はすっきりとした気持ちで眠れそうだ。
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